RESEARCH


<研究の概要>

ヒトの脳には、大脳だけで数100億、小脳を含めると1000億を超える神経細胞が存在します。さらにヒトの脳には、神経細胞の10倍以上のグリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア)が存在すると考えられています。これら膨大な細胞から構成されるネットワークが、複雑かつ精密な高次脳機能をコントロールする上で極めて重要になります。近年、神経細胞内でのタンパク質代謝系(ユビキチン-プロテアソーム系、オートファジー-リソソーム系など)やRNA代謝系(RNAスプライシング、RNA輸送、局所翻訳など)の異常が、神経-グリア相互作用に働きかけ、神経変性疾患、精神疾患発症に関与することが明らかとなってきました。私たちは、脳内における「RNA-タンパク質代謝」という生命の根幹となる機構の破綻が、個々の神経細胞に対してどのような影響を与えるのか、またこれら細胞内現象が周辺細胞、特に脳内免疫担当細胞として考えられているミクログリアに対してどのような影響を与えるのか、詳細な解析を通して、高次脳機能の本質に迫っていきたいと考えています。


現在は下記2つをメインプロジェクトとして進行しています。


1. RNAスプライシング制御と神経疾患

これまでに私たちは、脱ユビキチン化酵素USP15 KOマウスが、RNAスプライシング異常を伴った神経変性様の表現型(小脳・脊髄・骨格筋の変性、萎縮など)を示すことを見出しています。この知見をもとに、スプライシング異常を示すRNAを包括的にスクリーニングしたところ、小脳変性、精神遅滞を示す稀少神経疾患の責任遺伝子、ミオパチー、心筋症などの責任遺伝子、神経-ミクログリア相互作用に関与しそうな分泌タンパク質、膜タンパク質の遺伝子など、興味深いターゲットを複数同定しています。現在、同定した遺伝子群の解析を進めており、今後はRNA代謝異常を細胞外環境へと伝達するメカニズムやシナプス近傍での神経-ミクログリア相互作用のメカニズムなどを解析し、USP15の欠損から神経変性に至る分子メカニズムを明らかにしていきたいと考えています。


2. 脳神経系におけるオートファジーの分子基盤

ATG7は、タンパク質分解系の一つオートファジーの必須遺伝子で、神経系特異的なATG7 KOマウスでは、神経細胞内に凝集タンパク質が蓄積し、神経細胞死を引き起こします。興味深いことに、このATG7KOマウスで凝集タンパク質を除去しても神経細胞死亢進は抑制されません。このことから神経細胞においては、これまでの概念(異常凝集タンパク質の蓄積→細胞死誘導)とは異なるメカニズムの存在を考える必要があります。これまでに私たちは、神経特異的ATG7 KOマウスでは、ミクログリアの過剰増殖を伴った脳内炎症性反応が亢進することを確認しています。またATG7KOマウス脳の遺伝子発現プロファイルを解析したところ、炎症性反応、小胞体ストレス、金属代謝などに関与する遺伝子群、さらには機能未知のGタンパク質共役型受容体など複数の興味深いターゲットを同定することに成功しています。今後は、これらターゲットの解析を中心に、オートファジー異常による新しい神経細胞死誘導や周辺ミクログリア活性化の分子メカニズムを明らかにしていきたいと考えています。


上記以外にも、脳神経疾患に関与するユビキチンリガーゼの標的低分子化合物スクリーニングシステムの構築なども並行して進めています。もう少し具体的に研究内容を聞いてみたい方、分子神経生物学に興味があるという方(特に学生さん)は、是非とも下記アドレスまでご連絡下さい。一緒に研究してくれる仲間募集中です。


鶴田(ftsuruta(at)biol.tsukuba.ac.jp)

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